脳脊髄液圧と緑内障

低い脳脊髄液圧が緑内障の原因?

  日本人の緑内障の大半は正常眼圧緑内障です。「視神経が眼圧に弱いために」正常な眼圧でも視神経線維束、視野の欠損が生ずると言われていますが、「視神経が眼圧に弱い」とはどんな意味なのかがわかりませんでした。

  今回紹介する論文では、 正常眼圧緑内障患者は脳脊髄液圧が高眼圧緑内障、健常癌に比べて有意に低いことを報告しています。このため篩板における脳脊髄液圧と眼圧の圧力差が大きくなることが緑内障の原因になると考えられるわけです。

  対象は正常眼圧緑内障患者14例、高眼圧の緑内障患者29例(ともに開放隅角緑内障)、健常眼71例。脳脊髄圧はそれぞれ9.5±2.2mmHg、11.7±2.7、12.9±1.9と正常眼圧緑内障群で有意に低値となっていました。また、篩板における圧力差(眼圧−脳脊髄液圧)は正常眼圧緑内障群は6.6±3.6mmHg、高眼圧緑内障群で12.5±4.4と、ともに健常眼の1.4±1.7mmHgより有意に高値となっていました。また緑内障眼における視野変化の程度も、脳脊髄液圧と、また特に篩板における圧力差と相関していました。

 篩板部で、脳脊髄腔と眼球内にわずかな圧力差しかない健常眼に比べ、緑内障眼では圧力差が高いために視神経束への循環が妨げられると考えるのが自然でしょう。正常眼圧緑内障の発症も、脳脊髄液圧からスムーズに説明することが可能です。脳脊髄液圧は腰椎穿刺によって測定されていますから、そのまま篩板部での液圧に等しいとは言えませんが、プロスペクティブに行われた調査でもあり、理屈に適った、クリアカットな結果だと思います。

 緑内障を疑う患者全員に腰椎穿刺を行って、脳脊髄液圧を測るわけにはいきませんし、脳脊髄液圧を安全に上げ続ける方法もありませんから、そのまま臨床に応用できる調査結果ではありませんが、正常眼圧緑内障に対する理解がより深まったと思います。また、著者らは炭酸脱水素酵素阻害剤内服のように、眼圧と同時に脳脊髄液圧も下げてしまう治療は、今回の結果から考えると好ましくないのではないかと指摘しています。脳脊髄液圧を考慮に入れることは、今後、治療方法の評価に影響するかも知れません。

 脳脊髄液圧が関わるのは視神経だけではありませんから、他にも症状が出ているのではないかと、「正常眼圧緑内障症候群」とも言うべき全身疾患が存在するのではないかという気もしますが、見たことないですね。やはり目だけの現象なのでしょうか。ただ、脳脊髄液圧は血圧と相関があり、正常眼圧緑内障患者には低血圧が多い傾向はあるようです。他にも何か差が出そうな気がするのですが・・・

出典は、Ren R et al.: Cerebrospinal Fluid Pressure in Glaucoma . A Prospective Study. Ophthalmology 117: 259-266, 2010

 

 

ホームページに戻る

眼科ニュースの目次に戻る