角膜内皮再生医療

人に対する角膜内皮再生、移植治療がようやく現実味を帯びてきた

 角膜内皮と言えば、脳細胞同様「 細胞分裂しない」「老化に伴って減っていくだけ」「ダメージを受けたら更に減る」 のがこれまでの常識でした。角膜内皮細胞密度が500 cells/ mm2程度まで減少すると、角膜内皮のバリアー/ポンプ機能は破綻し、角膜実質の浮腫、混濁、水疱性角膜症に至って、視力を回復する手段は角膜移植しかなくなります。

  角膜移植自体は、最近になって以前の全層移植と異なり、角膜内皮だけを移植する術式などが開発され、普及し始めましたが、その角膜内皮は遺体眼からの提供を待たねばならず、なかなか簡単には入手できません。入手しやすい輸入角膜を使用することも増加していますが、これはこれで国際的、政治的、倫理的問題が付きまといます。

  昔書いた私の博士論文は角膜内皮に関するものでしたが、ウサギの角膜内皮細胞は分裂増殖することがわかっており、人のようにほとんど細胞分裂しない角膜内皮細胞にダメージが生じた時の反応を観察するには、サルかネコ(!)の角膜を使うしかないと言われていました。

  その後、細胞増殖促進因子などの発見、応用によってヒト角膜内皮細胞も分裂、増殖させることが可能になってきましたが、せっかくシャーレの中で一層のシートを形成してくれても、それをヒト角膜の内面まで移動させ、貼り付ける方法がありませんでした。細胞だけ注入しても簡単に内皮細胞を補強してはくれません。

  今回の報告は、人工のコラーゲンシート上で角膜内皮細胞を増殖させ、層を形成させることによって、角膜内皮移植の要領でそのシートを角膜内皮を損傷、掻爬したカニクイザルの角膜内面に貼り付け、定着、透明化させることに成功したレポートです。ここまで来れば人眼への応用は完全に現実的なものになったと言えるでしょう。

 現在行われている、遺体眼からの角膜内皮移植でわかってきたことは、角膜水疱症が長く続き、実質に非可逆な変化が起きてしまってからでは、移植が成功して水疱症が消失しても角膜混濁のために良好な視力が得られないということです。角膜内皮再生医療によって早期から移植が行われれば、そのような問題も起きにくくなるでしょう。全層移植と違って、術後乱視に悩まされないのも魅力です。一般臨床での応用には5年以上、あるいは10年はかかるかもしれませんが、楽しみに待つ値打ちがあります。

  出典は、小泉 範子: 霊長類を用いた角膜内皮再生医療の開発. 日眼会誌 113: 1050-1059, 2009

 

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