近視矯正用フェイキックIOLの安全性

角膜内皮細胞への非可逆的影響が問題

 近視矯正手術の一種として、眼内レンズ挿入があります。通常、眼内レンズ(IOL: IntraOcular Lens)は白内障手術の術後に、除去した水晶体の代わりに挿入されますが、水晶体を取り除くことなく、その上に(あるいは眼球の前方に)被せる形で挿入して近視を矯正するのがフェイキックIOLと呼ばれる眼内レンズです。

  問題は、白内障術後に、水晶体を取り除いたスペースに挿入する後嚢レンズを使用することができないため、その前方の前房に挿入するIOLとなってしまうことです。白内障術後の眼内レンズも、過去においては前嚢レンズが使用されていましたが、虹彩や隅角と干渉し、また、角膜後面との距離も短いため、虹彩炎、緑内障、前房出血に加えて角膜内皮細胞の減少などの合併症が頻発し、後嚢レンズに道を譲った経緯があります。

 フェイキックIOLでは、デザインの改良によってこれらの欠点を克服したと宣伝されており、短期間の経過観察では角膜内皮細胞にも大きな変化はみられなかったとする報告もあります。しかし、フェイキックIOLによる近視手術は若年者に対して行われることが多いため、長期間での経過が問題となります。特に角膜内皮細胞は増殖能力がないため、ここに加わったダメージは回復することなく蓄積していき、最終的には角膜移植を必要とする水疱性角膜症に至る可能性があります。

 今回紹介する論文では、「Artisan フェイキックIOL」という種類の近視矯正用眼内レンズについて、173例308眼という大きな対象を平均3年以上(1〜7年)追跡し た結果、少なくとのこのフェイキックIOLにおいては角膜内皮細胞に著名なダメージが認められるという結果を得ています。角膜内皮細胞減少率は、5年間で平均8.3%という大きな数字であり、年令に伴う自然減少を補正してもなお5.3%の減少となります。これは50年で角膜内皮細胞がほぼ半減することを意味し、20才で手術を受けた場合、白内障手術を受ける70才時までには臨床的に大きな問題となるレベルの密度低下が発生することになります。

 別に意外な結果ではなく、過去において前嚢レンズで経験された通りのことが、程度はマシになったものの、再現されただけのことです。フェイキックIOLには様々なデザインがあり、前房ではなく、後房内で水晶体の前に載せるように挿入するものもあります。しかし、この場合は水晶体との接触による白内障発生が懸念されます。Artisan以外のフェィキックIOLについての長期観察結果はこれからでしょうが、楽観的に見ることができない手術方法だと考えています。

    出典は、Saxena R et al. Long-term  Follow-up of Endothelial Cell Change after Artisan Phakic Intraocular Lens Implantation. Ophthalmology 115: 608-613, 2008 です。

 

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