診療報酬改定とコンタクトレンズ合併症

拙文で恐縮ですが。

 平成18年度の診療報酬改定にともなって、コンタクトレンズ(CL)診療に対する報酬の大幅な減額、一部では自費化が行われている。どの程度の影響が生ずるかは運用方法が落ち着くまでわからない部分があるが、自費化という言葉に脅かされて、なるべく定期診察には行かないようにする、通信販売で購入するという患者が出始めているようである。
 米国では眼科専門家が発行した処方箋なしにCLを販売することは連邦法によって禁止されており、処方箋に有効期間を設けることによって定期検査を受けることが保証されている。しかし、日本ではCLを販売する際に眼科受診や処方箋の確認を義務づける法律は存在しない。現在でこそ、トラブルを恐れてほとんどの業者が処方箋の確認を行っているが、今後CL使用者が受診を避ける傾向が拡がれば状況が悪化する可能性は高い。厳しい競争に追われて、処方箋確認なしでのCL販売を始める量販店や通販業者も出現するだろう。法律的には問題なく、簡単な説明ひとつで購入者の自己責任とすれば良いのだから。
 しかし、CL装用には常に合併症の危険が伴う。先日集計された日本コンタクトレンズ学会CL救急小委員会の調査結果によると、昨年12月の一ヶ月間の間に、対象となった10施設においてCLが原因となった眼科救急が85例発生しており、そのうち26例は「矯正視力低下を残す可能性がある」症例と判断された。各施設の背景人口から推計すると、日本全国では毎年9000件以上のCL救急が発生し、うち3000例近くは危険な症例ということになる。
  毎年開催される日本眼感染症学会、日本コンタクトレンズ学会において、重篤な視力障害を来したCL合併症例が例年繰り返し報告されており、その背景にはさらに多くの重症例が潜んでいると考えられる。これらの症例の大半ではCLの不適切な管理、定期検査の欠如、不調に対する自覚の欠如や受診遅れが重症化の原因となっている。日本コンタクトレンズ協議会の過去の調査においても、CL合併症の最多原因は使用者の不適切な装用やCL管理にあることが示されており、重篤なCL合併症を予防するためには、定期的な検査と患者指導の繰り返しが不可欠なのは明らかである。
 CL自身や多目的用剤の進歩によってCL装用は快適になり、ケア方法も簡単になった。このためCLは簡単で安全なものという通念が一般に拡がっているようである。それにつられて処方適否の判断や診察時の確認、指導が安易になってはいないだろうか。初めてCLを処方する際には、CLは必ず有害であり、トラブルの起きないCLは存在しないという説明から始めるのが基本である。どのような合併症がどのような原因で生ずるのか、CLケアはどのような目的で行っているのかという説明も繰り返し行うべきである。
 CLを高度管理医療機器に指定している一方で、米国のようなCL使用者の安全を守るための法制がまったくなく、合併症の危険が同等以上にあるにも関わらず、度なしのカラーCLは雑品として野放しという、我が国の法律の欠陥が根底にあり、診療報酬改定によってさらに合併症発生の危険が増しつつあるのが残念ながら現状である。問題の根本が解決されるまでは、我々臨床医がCL使用者に対して十分な説明、指導を行うことによって、予想される合併症増加を抑えるしかない。CL処方や定期検査における眼科診療の質がこれまで以上に問われていることを我々は自覚しなければならない。
  出典は、稲葉 昌丸:巻頭言 日本コンタクトレンズ学会誌 48: 1,  2006 です。

 

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