高眼圧に対する偽薬の有効性

偽薬はトルソプトなみに眼圧を下げる

 ヨーロッパにおいて、高眼圧(22〜29mmHg)だが正常視野を持つ、いわゆる高眼圧症患者に対して、2% Dorzolamide(トルソプトの有効成分。ただし日本で販売されているトルソプトは0.5%と1.0%)点眼群と偽薬点眼群にわけて5年間経過を観察し、眼圧の変化と視野異常発生(緑内障発症)の有無を観察した報告です。
  対象年齢は30才以上、ベルギー、ドイツ、イタリア、ポルトガルの4国、18施設で1081名の高眼圧症患者を対象にテストを開始し、5年のフォローを終了したのは、Dorzolamide使用群345名、偽薬使用群407名の、計752名でした。
 Dorzolamide群は開始時の平均眼圧23.4mmHgが最初の6ヶ月で20.0mmHgと14.5%低下、以後も徐々に眼圧下降が5年終了時には18.2mmHgと22.1%の低下を得ています。しかし、偽薬群も開始時の平均眼圧23.5mmHgが6ヶ月で21.3mmHg、5年終了時で19.1mmHgと有意な眼圧低下を示しました。Dorzolamide群は偽薬群より有意に低かったものの、偽薬群でも4.4mmHg、開始時の18.7%という顕著な眼圧低下が得られたのは意外な結果といえます。
  試験は、視野あるいは視神経乳頭所見の確実な悪化が認められた場合には中止され、緑内障として本格的な治療に移ることになっていましたが、そのような症例はDorzolamide群の13.4%、偽薬群の14.1%に認められ、 統計的には差がありませんでした。この間、Dorzolamide群の12.9%、偽薬群の2.7%に点眼時の不快感が、Dorzolamide群の2.8%、偽薬群の0.1%に味覚異常が認められています。
 Kass (2002)らは、高眼圧症患者の眼圧を平均18%低下させることで5年後の視野異常発生を抑制できるという論文を発表していますが、今回の調査では異なる結果となったわけです。今回の調査が偽薬を用いたdouble-masked手法を採用し、視野や眼底写真の判定も別のグループが投薬内容を見ないで行うなど、大変厳密な方法で調査していることを考えると、今回の結果の方が信用できるように思います。いずれにせよ、高眼圧症に対する予防的投薬は(Dorzolamideに関する限り)効果がないか、あっても議論の余地がある程度ということになりそうです。であれば点眼時の不快感や味覚異常、さらには費用負担を承知で敢えて処方するのはどうでしょうか。
 ここで興味深いのは、偽薬でも有意に眼圧が下がった、しかもDorzolamide同様、使用期間に従ってさらなる眼圧下降が生じたという点です。著者等は他の報告(Orengo-Nania 2001)でも偽薬投薬6ヶ月で5〜11%の眼圧下降が見られたが、効果は徐々に減少する傾向があったと今回との違いを指摘しています。製剤からDorxolamideだけを除いたのが今回の偽薬ですが、これだけでは眼圧下降が得られないことは他の報告で示されています(Strhalman 1996)。
 使用期間が長くなるに従って平均眼圧がさらに下がるのは、眼圧が高い症例が調査から脱落するからだろう、と著者等は推測しています。 しかし、偽薬で眼圧が下がったこと自体についてははっきりした説明は見出されませんでした。
 結論として、Dorzolamide自身が無効なのではなく、今回の調査では偽薬にも眼圧下降作用が生じたために差が認められなかった。とはいえ、高眼圧症に対する投薬効果の有無、正当性については偽薬の投与や、試験戦略を含めて、さらに洗練された調査が必要だろうとしています。
  出典は、The European Glaucoma Prevention Study (EGPS) Group. Results of the Europian Glaucoma Prevention Study. Ophthalmology 112: 366-375, 2005 です。

 

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