| 2000年の記事「屈折矯正手術に対する米軍の対応」をアップデートしようとしていたところ、阪大眼科医局の同窓である後藤浩也先生がサンディエゴに留学中で、サンディエゴ米海軍病院、Naval Medical Center San Diegoの Refractive Surgery Center、という、まさに米海軍の屈折矯正手術の最前線でも屈折矯正手術に関して共同研究をされていることがわかり、連絡を取って資料を頂くことができました。その資料を基に米軍における屈折矯正手術の現状をまとめてみました。 |
| 米軍は兵士が屈折矯正手術を受けることを積極的に薦めており、そのための軍施設、レーザーセンターも続々と増えています。2004年9月の「Associated Press」掲載記事によると、陸軍は8箇所、海空軍は10箇所の施設を運用しており、前線勤務の兵士が優先して手術を受けることができます。裸眼で良好な視力を得ることは、戦場で起こりがちな眼鏡の汚れ、破損やコンタクトレンズトラブルから逃れられるだけでなく、暗視ゴーグルやヘルメットサイトなどの最新装備を使用する上でも有利なようです。 |
| 特にPRKについては、第一線のパイロットを含むどの兵種についても全軍で認められており、術後一定の厳密に定められた検査をパスすれば入隊、あるいは職務への復帰が可能です。推奨はされませんが民間の病院で手術を受けることも可能です。ただし、 すでに軍務に付いている場合は部隊の司令官や部内の病院の許可を得る必要があります。 |
| LASIKについては一段厳しい扱いとなっています。LASIKをパイロットに認めているのは陸軍のみですし、その陸軍でもヘリから飛び降りて森を駆け抜けるなどの戦闘行動が 、角膜フラップずれ、脱落などの事故を招くおそれがあるとして、あまり推奨していません。 |
| 航法士や兵器操作員、航空医官にもパイロット同様のLASIKに対する制限があり、民間を対象とする米連邦航空局(FAA)の 「RKまで含んですべてのパイロットにOK」とする寛容な姿勢とははっきり違いがあります。 |
| 術後飛行職務に復帰する場合も、PRK、LASIKとも最低1ヶ月以上待った上で、視力だけでなく、眼位、色覚、調節、立体視、不等像視などを含む厳格な検査をパスしなければなりません。NASAはPRK すら禁止しており、屈折矯正手術はすべて不可という、軍以上に厳しい許可基準となっています。特殊で高価な機体を、苛酷な状況で運用することが多い、組織の性質上の問題かと 推測しています。 |
| 米軍は「空挺部隊やレンジャー研修生における研究や一般での報告から、そのようなトラブルの頻度は極めて少なく、しかも術後時間経過に従ってさらに安全になる(Army Refractive Surgery 2003 Policy)」としているものの、ダイバーやパイロットなどへの適用には慎重なようです。 |
| ICR(Intacs、角膜実質中に挿入するプラスティックリング)は、角膜に切開を入れるため強度を損なうおそれがあるとして、RK同様、全軍、全職務で許可されていません。 戦場では苛酷な環境にさらされる上、一人の能力喪失が部隊、あるいは作戦そのものの命を脅かすことがあり得ます。従って、民間とは違うレベルの安全性、確実性が要求されるということなのでしょう。なお、余談になりますが、就寝中にコンタクトレンズを装用して日中の裸眼視力を改善させるオルソケラトロジーについても米軍では認められていません。 |
| 後藤先生には多くの参考資料と共に、米軍の屈折矯正手術に関する研究の文献として、 Madigan WP, Bower KS. Refractive surgery and protective eyewear in the military. Ophthalmology. 2004 May; 111(5):855-6. を。 また、PRK術後に飛行機から緊急脱出した例を報告する論文として Tanzer DJ, Schallhorn SC, Brown MC. Ejection from an aircraft following photorefractive keratectomy: a case report. Aviat Space Environ Med. 2000 Oct;71(10):1057-9. を紹介していただきました。 |
| 後藤先生ご自身も、アメリカの学会誌「Eye Wolrd」のサイトで紹介されています。http://www.eyeworld.org/article.php?sid=1946 今回は資料や情報提供で、大変後藤先生にお世話になりました。改めて感謝致します。 なお、この記事の文責、内容の誤りについての責任等はすべて私、稲葉 昌丸にあります。 |
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